Human in the LoopがいよいよDifyで可能に
コラム
2026/02/16

2026年2月のDify v1.13.0リリースで、いよいよ Human in the Loop(AIアプリやエージェントにヒトが行うアクションノードを加える-HITL)が実装されました。AIが作成した案を、人が判断や承認を行った後で実行に進めるという、「自動化」と「統制」のバランスを取る仕組みです。本記事ではHITLの具体的なユースケースと、メリット・デメリットの両面を整理します。

AIエージェントは、これまでのチャットボットとは異なり、単なる回答ではなく、「実行」まで踏み込みます。ERPへの登録、発注処理、価格変更、顧客への自動提案など、AIが自動で業務を動かすことが可能になる仕組みです。しかし、AIによる業務の自動化では以下のような懸念があります。
品質リスクを見落とす
経営戦略と整合しない判断をする
組織や顧客の暗黙知を考慮できない
HITLは、これらのリスクを抑えながらAIを活用するための安全装置です。では具体的にはどうなのか?
最初に、製造業における Dify Human in the Loop のユースケースをご紹介します。
① 原価変動連動型・動的価格承認エージェント
AIが以下を判断材料として販売価格をリアルタイム分析します。
原材料価格
為替
在庫水準
競合価格
そして「今出すべき最適見積」を提示します。しかし最終的な価格確定は顧客と多くの暗黙知を共有する営業責任者がレビューし、承認を必要とします。見込める効果としては、カスタマーライフタイムバリュー視点での受注率向上や利益率最適化などがあります。
② 設計変更の“経営影響”可視化エージェント
現場では頻繁に設計変更が発生します。AIは変更が以下に与える影響を算出します。
原価増減
納期遅延リスク
既存顧客製品の保守
その上で技術責任者が承認します。単なる図面チェックではなく、経営視点での判断支援です。
③ 在庫圧縮シミュレーション+CFO承認
AIが在庫10%削減案を提示したとします。しかし、それが欠品リスクを生む可能性もあります。AIは複数シナリオを提示し、最終的な圧縮率はCFOが決定します。結果として、キャッシュフロー改善やリスク管理の両立が可能になります。
④ 品質異常の“出荷可否”最終判定支援
AIが検査データを分析し、「グレー判定」を提示します。ここで自動出荷してしまうと重大事故につながる可能性があります。HITLにより、品質保証部が最終判断します。AIは警報装置、人間がブレーキ役です。
これからのAI活用は、「自動化するか否か」ではなく、どこまで自動化し、どこに人の意思を残すかという設計の問題になります。製造業はとくに、品質・原価・納期・信頼性が企業価値を左右します。だからこそ、HITLを単なる機能として捉えるのではなく、経営ガバナンスの仕組みと考えることが重要なのです。
小売業もまたAIエージェントの影響を強く受ける業界です。しかし小売の特徴は「変化の速さ」にあります。
天候で売上が変わる
SNSトレンドで需要が急増する
競合が突然値下げを行う
こうした環境でAIが自動的に価格変更や発注調整を行う仕組みはもはや現実的です。ですが、ここでも重要になるのがHITLです。AIのスピードと、人の責任。その両立が小売経営の質を左右します。
小売業における Dify Human in the Loop のユースケースをご紹介します。
① ダイナミックプライシング+本部承認
AIが以下を分析します。
在庫水準
売れ行き速度
競合価格
廃棄ロス見込み
そして「今この価格に変更すべき」と提案します。完全自動化すれば利益最大化の可能性は高まりますが、ブランド毀損のリスクもあります。頻繁な価格変更は消費者の信頼を損なう可能性があるからです。そこで本部が承認する仕組みを入れます。結果として、粗利率改善や値崩れ防止とブランド統制を両立できます。
② 廃棄ロス最小化発注エージェント
AIが過去データと天候予測から発注量を提案します。特に生鮮品では誤差が利益を直撃します。AIが「発注を15%減らすべき」と提示した場合、最終判断はエリアマネージャーが行います。
理由は、地域特有のイベントや競合出店など、AIが知らない情報を人が把握しているからです。これにより、廃棄削減や欠品防止と現場納得感向上が同時に実現します。
③ 多店舗在庫再配置エージェント
AIが全店舗の在庫状況を分析し、「この店舗からあの店舗へ移動すべき」と提案します。しかし、完全自動で実行すると欠品機会の減少の反面、物流コストが増える可能性があります。そこでSCM部門が承認する仕組みをHITLで組み込み、在庫回転率向上と廃棄ロス削減と同時にキャッシュフロー改善が期待できるようになります。
小売はスピードが命ですが、統制が崩れるとブランドが揺らぎます。HITLはそのバランスを取ります。さらに、「AIが勝手に決める」状態は現場の不信感を招きます。レビューや承認プロセスがあることで現場にAIへの納得感が生まれます。その上で、本部方針と現場判断をAIが橋渡しすることで組織全体がAI駆動に変革できるチャンスが生まれます。
Human in the Loop のメリットとデメリット
AIエージェントにHITLを組み込むことには多くのメリットが考えられます。しかし、HITLは万能ではありません。デメリットもあります。
【HITLのメリット】
1. リスク低減 AIの誤判断を人が防ぎます。
2. 社内受容性向上 「AIに仕事を奪われる」ではなく、「AIが補佐する」という構図になります。
3. 段階的導入が可能 最初は承認必須 → 徐々に自動化比率拡大という進め方ができます。
4. CXOが関与しやすい 経営判断に直結する領域へ安心して展開できます。
【HITLのデメリット】
1. スピードが完全自動より遅い 人によるレビューや承認待ちがボトルネックになる可能性があります。例えば小売業ではヒット商品は一瞬で変わり、売り切れることが多々あります。
2. 人が形式的承認になるリスク 何度も繰り返すうちに「AIが正しいだろう」と人が思考停止承認が起こる可能性があります。
3. 責任の所在が曖昧になる AIか人か、どちらが責任を負うのかという議論が必要です。
4. 運用設計が複雑になる どの判断を人に戻すのかの設計が重要です。
まとめ
DifyのHuman in the Loopは、エージェント活用のスピードを落とさず、リスクを抑え、経営判断と接続できる、実践的なAI導入を推進できる新機能です。ただし、人による承認設計を誤れば形骸化し、組織が混乱し、結果としてAI活用が停滞する可能性もあります。そのバランスをとる基本設計は、多くのケースでは下図のようにAIの回答の信頼性が高い場合はそのまま進め、そうでない場合は人が介在するという分岐を含んだものになります。

ここで重要になるのは、異なるモデルで回答を再確認するなどAIの信頼性を担保する設計と、その上で、「AIに任せる勇気」と「人が握る覚悟」の両立です。
生成AIの進化が加速度的に進む時代において、人の役割は減るのではなく、より重要な場所へと集中していきます。Human in the Loop は、そのための橋渡しなのです。


